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2014年2月

2014年2月 3日 (月)

男の子の映画 『セント・オブ・ウーマン』

男の子は受難の時代である。

勿論、いつの時代にも困難はある。
男女に限らず、生きていくのは大変だ。
しかし、最近まわりの連中、特に若い人たちを見ていると、女の子は比較的元気だが、男の子は戸惑っている。
「男らしさ」という物が、何だか分かりづらい時代なのだ。
 
だからという訳ではないのだが、最近、男の子を主人公とした映画を続けて観た。
どれも以前からの私のお気に入りで、劇場でもビデオでもDVDでも観ている。
久しぶりに観ると、以前とは少し違った感想を持つこともある。
 
『セント・オブ・ウーマン』は大好きな映画だ。
アル・パチーノがついにオスカーを取った作品で、彼も素晴らしいが、映画も素晴らしい。
監督はマーティン・ブレスト。
他には『ビバリーヒルズコップ』や『ミッドナイトラン』などを撮っている。ラジー賞を大量に獲得した『ジーリ』なんて作品も撮っているが、これは見ていない。
 
『セント・オブ・ウーマン』の演出は素晴らしい。
凝ったカメラワークや編集はなく、オーソドックスな撮り方だが、映像は美しく、何より出て来る役者の演技が全て素晴らしい。
冒頭、クリス・オドネル演じる高校生が友人の悪戯を目撃し、その名前を校長に言わなければ、退学処分になるという立場におかれる。
一方、アル・パチーノは盲目の退役軍人で、感謝祭の間にニューヨークに行き、ある計画を実行しようとする。 
クリス・オドネルはアルバイトで週末の間だけ彼のケアをする事になり、二人でニューヨークを旅する、というのが大まかなストーリーだ。
 
旅をしながら二人の関係が反撥や共感を繰り返し、次第に親密になっていく。
この手の作品の約束通りだが、次々に出て来るエピソードの人物造形が素晴らしい。
アル・パチーノの兄弟とその家族、レストランで出会いタンゴを踊る若い女性、フェラーリのディーラーに勤める初老の男、旅の間リムジンを運転するドライバー、最後に登場する高校の女教師。
全てが完璧なキャスティングで、皆、名演を見せる。
特にアル・パチーノとタンゴを踊ったガブリエル・アンウォーは、この作品で一躍注目の的になった。
クリス・オドネルの同級生役で若きフィリップ・シーモア・ホフマンが出ており、若いながらにも独特のくせ者演技を披露している。
アル・パチーノ演ずる「大佐」は、輝かしい軍歴を誇るのだが、手榴弾の事故で失明していらい、絶望の中に生きている。
彼の旅の目的は、兄弟や家族に会い、いい女を抱き、フェラーリに乗り、要するにやり残した事をやった後、自殺するという事だ。
それに気づいたクリス・オドネルが必死になって彼の自殺を止めるシーンが一つの山場だ。
このシーンは二人とも素晴らしい。
 
自殺を思いとどまった大佐は、クリス・オドネルを高校まで送り届ける。
彼は校長に対する悪戯事件の目撃者として、裁判のような公聴会にかけられている。
一旦、去ったかに見えた大佐が、公聴会の場に現れてからが、本当のクライマックスだ。
ここで大佐はクリス・オドネルを弁護する大演説を行う。
このモノローグが実に素晴らしい。
アル・パチーノはアクターズスタジオ系の俳優だが、同時にシェークスピア俳優でもある。
大向こうを唸らせるようなモノローグは、彼の真骨頂だ。
このモノローグでオスカーを取ったと言っても過言ではない。それくらい素晴らしい!
ユーチューブなどには、この部分だけを抜き出した映像が上がっている。このモノローグのファンが世界中にいると言う証拠だろう。
本当なら全てを引用したいくらいだが、長くなるのでやめておく。
今回久しぶりに見直して特に印象に残ったのは、以下の件だ。
 
『……私も、これまで何度も人生の分岐点に差し掛かった事がある。その時、どちらの道をとるべきか、私はすぐに分った。しかし私はそれを選ばなかった。何故なら、そちらの道はとても困難だからだ……』
この後、友人を売るのを潔しとせずに沈黙を続けるクリス・オドネルを大佐は讃えるのだ。
今回改めて強く感じたのは、この物語は実はアル・パチーノ演じる大佐の成長物語であるという事だ。
年長者と少年が旅をする話であれば、少年が年長者から何かを学んで大人になるのだと普通は思う。しかし、年齢は重ねていてもの成長していない大人は多い。
大人になる過程で、何か大事なものを失ってしまったという事もよくあることだ。
そして、誰かが誰かに影響を与えると言う事は、決して一方的な行為ではなく、その反作用として自らも影響を受けることも多い、という事をこの映画は語っている。
大佐は少年を救ったが、少年もまた大佐を救ったのだ。
 
さて……。
いずれにせよ男の子にとって重要なのは、自分の足で立つことである。
その為の通過儀礼は、ときに辛く厳しい。しかし、それを超えなければ本当の人生を手に入れる事は出来ない。
そんな普遍的な教訓を、エンターテインメントとして伝えてくれるのだから、映画ってのは実に素晴らしいと改めて思った次第である。
 
追記。
これを書き終えた後、フィリップ・シーモア・ホフマンの訃報を知った。
素晴らしい俳優だったので、実に残念だ。
ご冥福をお祈りします。
 
 
 
 
 
 

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