« 王様と道化 | トップページ | 男の子の映画 『セント・オブ・ウーマン』 »

2014年1月10日 (金)

子供たちは何処へ行ったのか?

『かぐや姫の物語』を見た。
正直見ている最中は退屈した所もあるが、その完成度の高さと新しい技法への挑戦、そして現代の女性の生き方にも通じる普遍性など、素晴らしい作品だと感じた。
巷では『風立ちぬ』と比べてどっちがいいとか、これに刺激されて宮崎さんは次の作品を撮るとか、様々な意見が飛び交っている。
いずれにせよ日本を代表するアニメーション作家の最後の作品になるかもしれない傑作が二本そろった今年は記念するべき年だ、などと書くつもりだった……。
しかし……何だろう、この違和感は……。
 
『風立ちぬ』は本当に面白かったので、結果的に三回も見てしまった。
『かぐや姫』は一回しか見ていないが、そのどちらにも感じた妙な気分の正体がなんなのか……しばらく分らなかった。
雑誌やネットに載っている双方の批評や感想を読み、好き嫌いはあるにせよ、この二本の作品を多くの人が喜んでいる……素晴らしい事だ……そう思っていた。
しかし……先日、その違和感の正体にやっと気づいた。
 
『子供たちはどこに行ったのだろう……』
 
五年前、『崖の上のポニョ』を劇場で見た時、ポニョがスクリーンに現れた瞬間に「あ、ポニョだ!」という子供の声が聞こえた。
その後も、「わあ、可愛い」とか「ポニョ大丈夫?」とか、映画に素直に反応する子供の声があちこちから聞こえて来た。上映が終わると「面白かった!」「ポニョ可愛かったね!」と言う声とともに、「ポニョ、ポニョ、ポニョ、さかなの子~」という例の主題歌を唄いながら劇場を去る子供たちの姿を沢山見かけた。
『となりのトトロ』を見た時にも、同じような光景を見た記憶がある。
しかし今回、どちらの作品にも子供の姿はなかった。
『風立ちぬ』には、それでも何人か子供がいたような気がする。
私の知人も子供を連れて見に行ったそうだ。しかしすぐに退屈してしまい、「別の映画のほうが良かった」と不評であったらしい。
おそらく『かぐや姫』は見に行かないだろう。
 
アニメーションが子供だけの物でなくなってから久しい。
ロボットものも、ヒーローものも、美少女ものも、いつの間にかメインの客は大人になってしまった。
20代30代へたすると50代の観客がアニメ映画の初日に列を作る。
深夜の時間帯に放送されるアニメも多く、最初から子供を観客に想定していない。
その傾向に文句をつける気はない。
「大人向けアニメ」というのがあっても構わないし、そこに大きなマーケットがあるのも知っている。
「木を植えた男」に代表されるアート系のアニメという物も古くから存在している。
しかし、そんな世の中の傾向とは別に、子供向けのアニメを作り続けて来たのがスタジオジブリであり、宮崎駿であった筈だ。
 
『風立ちぬ』の映像化に宮崎さんは当初反対だったそうだ。
『アニメ映画は子供のためにある』というのが彼の信条であり、子供向けの他の企画も用意していたらしい。しかしプロデューサーの鈴木さんが宮崎さんを口説いて、『風立ちぬ』は映画化されたそうだ。
「宮崎駿は戦争について総括するべきだ」というのがその理由だ。
仰るとおりである。さすがに鈴木プロデューサーは良いことを言うな、と思っていた。
しかし、本当にそれで良かったのだろうか……。
宮崎監督の引退作としてはそれもいいかもしれない。しかし彼が「大人向け」のアニメを作ってしまったら、「子供のためのアニメ」を作る人はいなくなってしまうのではないか……。
『かぐや姫』の大衆を拒絶するある種の高尚さに触れた今、そんな思いがさらに強くなっている。
 
前からうすうす感じていた事なのだが、鈴木プロデューサーや高畑監督は、実は「アニメ」がそれほど好きじゃないんじゃないだろうか?
本当は「実写」の映画を作りたいんじゃないだろうか?
宮崎監督にはそれを感じたことはない。
彼は根っからアニメもしくはマンガの人だと思う。何故なら彼は自分で画を描くから……。
 
『風立ちぬ』で宮崎監督の映画監督のキャリアは終わる。
その事に納得をしていた。『風立ちぬ』はそれにふさわしい作品だと思っていた。
しかし今は痛切に思う。
『もう一本撮ってほしい!』
それは『風立ちぬ』の時に流れしまった別企画なのか、それともインタビューなどで何度も語っていた『毛虫のボロ』という企画なのか……個人的にはこの毛虫の話が見てみたいが……とにかく子供向けにもう一本だけ作って欲しい。
そして劇場を子供たちの歓声で一杯にして欲しい。
 
「子供向けのアニメを作っていた二人のおじさんは、子供たちを見捨てて、月に帰ってしまいました……」
スタジオジブリという童話が、そんな終わりを迎えてほしくはない。
そんな風に今は思っています。
 
 
 

|

« 王様と道化 | トップページ | 男の子の映画 『セント・オブ・ウーマン』 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/543593/58701721

この記事へのトラックバック一覧です: 子供たちは何処へ行ったのか?:

« 王様と道化 | トップページ | 男の子の映画 『セント・オブ・ウーマン』 »