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2013年12月

2013年12月13日 (金)

王様と道化

『ポニョ』が好きだと言うと、「え~っ?」と言われることが多い。

 
『ポニョ』とは宮崎監督の『崖の上のポニョ』の事だ。
大ヒットしたわりには宮崎作品の中では人気がないようだ。
「あなたの好きな宮崎アニメ」などというアンケートでも大抵最下位近くに位置している。
他人がどう評価しようとも、私は劇場公開されているときに三回も見てしまった。
勿論、 DVDも買ったし、このたびついにブルーレイ・スペシャルエディションなるものを手に入れた。
 
これには『ポニョはこうして生まれた』と題されたメイキング・ドキュメンタリーが一緒についている。
DVDでは別に発売されていたもので、なんと12時間30分におよぶ長大な作品だ。
 
宮崎監督の人と作品に関しては、ここ数年何かある度にドキュメンタリーが放送されている。『ポニョ』の時にも同様に放送された。それらはいつも見応えのある番組なのだが、このDVDは放送には使われなかった映像も沢山追加した上、様々な理由で全く別の作品になっている。
これを私はネットを通じて買ったが、ネット内の書き込みによると、このメイキング・ビデオの評価は極端な賛否に別れている。
非難されている場合、その理由の殆どはディレクターに関するものだ。普通メイキング・ビデオのディレクターがここまで叩かれる事はない。
私は俄然興味をかき立てられた。
 
1日に約1時間分を見ることにして、最後まで見るのに2週間近くかかった。
で、結論から言うと、実に面白かった!
今まで見たメイキングの中で三本の指に入る面白さだった。
 
話題のディレクターは「入社6年目」とナレーションで言っていたから、おそらく二十代の後半だろう。
今まで放送されたジブリ関連のテレビ番組は、プロのナレーターと洗練された編集によって見応えのある物になっていたが、この作品は全編がディレクター自身のナレーションで進行する。
お世辞にも上手いナレーションでない。編集も時系列にそって日記の様に進んで行くだけで、あまり工夫はない。
 
『取材に当たっては、取材者としてではなく、宮崎監督の話し相手として接すること』
『カメラマンは呼ばず、自分でカメラを回す事』
 
そんな条件が最初に鈴木プロデューサーから与えられたそうだ。
ディレクターはその指示に忠実なのか、とにかく宮崎監督の日常をホームビデオのように記録してゆく。
最初のころは『ポニョ』のかけらも見えず、お手製の地球儀に色を塗ったり、依頼された挿絵を描いたり、車に取り付けたカメラでスタジオ周辺の映像を撮ったり、そんな事をしている宮崎監督を延々と写す。
それでも、スタジオの隣に保育園を作る打ち合わせや、別の企画が原作者から断られる様子などを記録しつつ、次第にポニョの構想が浮かび上がって来る。
監督は主要スタッフを二人呼び、企画準備室を作る。
作画監督の娘の写真を見て、「これ、まさしくポニョだよ」などと喜んだり、『カーズ』のプロモーションで来日したジョン・ラセターにイメージボードを見せる場面などもある。
やがて構想は具体的に形となって来るが、それとともに監督の精神は緊張し始め、ディレクターとの会話もとげとげしい物に変化する。
 
このディレクター、監督に対する質問が素直というか純粋というか……宮崎監督を呆れさせたり、イライラさせたりすることが多い。最初のうちは、それでも子供の質問に答える様に丁寧に対応しているのだが、お互いに相手に慣れてくると遠慮がなくなる。
絵コンテがある程度進行し、作画スタッフが編成され、作画開始となると、映画作りはいよいよ後戻りが出来ない。
監督も精神が高揚し、緊張し、そしてそしてついに爆発する。
 
『人が孤独になりたがっている時に、それをどうやって映像化するか、それを考えるのが仕事だろう!』
『ただカメラを向ければいいってもんじゃないんだ!』
『少しは自分で考えろ!』
『俺は不機嫌でいたいんだ! 本来、そういう人間なんだ!』
 
宮崎監督の怒りを買ってしまったディレクターは、これ以上の密着するのは不可能と判断し、取材を中止にする。
ここまでが前半である。
 
しばらくして、彼は番組のパーソナリティーと共に再びスタジオを訪れる。今度はただ同行ディレクターとして無難に仕事を終える、筈だった。
帰りがけに鈴木プロデューサーから宮崎監督のメッセージが届けられる。
『一度怒ったら、二度と近寄らなくなった。そんな事じゃこっちが困る。怒られたら、さらに30センチ近寄るくらいじゃなきゃダメなんじゃないのか?』
このメッセージを受けて、再び取材が始まる。
この後半部分も5時間以上あって見応え充分なのだが、やはり宮崎監督が怒り出す前半部分が圧倒的に面白い。
 
全編を通じて思い出したのは、黒澤明監督の『乱』における王と道化のやりとりだ。
(もちろん『乱』の原作である『リア王』にも王と道化のやりとりはある。しかし、私には宮崎監督と『乱』の一文字景虎つまり黒澤明監督がダブって見えてしまった)
 
王様は何度も道化を怒鳴りつける。道化はすぐに遠くへ逃げるが、しばらくすると戻って来る。そして再び怒鳴られる。そんな事の連続である。
このドキュメンタリーでもディレクターは何度も呆れられ、遠ざけられるが、再び舞い戻ってきてカメラを回し続ける。
宮崎監督はカメラの前で何度も不機嫌になるが、彼がいなくなると『何でいないんだ?』と呼び戻したりする。
それはまさしく『王様と道化』の関係だ。
そして、この長大なメイキング・ビデオを見終わって感じる事それは……王様はいつも孤独だという事……そして道化を必要としているという事……。
 
『ポニョ』はその後もさまざまなドラマを引きずりながら、ついに完成する。
このメイキングのディレクターは見事に道化の役を務めたという事であろうか?
 
 
 
 

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