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2013年9月 5日 (木)

「風立ちぬ」を見ました

子供の頃、飛行機のプラモデルを作るのが好きだった。
メッサーシュミット、スピットファイヤ、トムキャット、そして零戦。
組み立てた後、綺麗に塗装をして、糸を使って天井から吊していた。
空想の中で、それらは華麗なる空中戦を繰り広げていた。
 
中学の頃だろうか、ふと「何故自分は戦闘機ばかりつくるのだろうか?」と疑問を感じた。
飛行機が好きだったが、旅客機のプラモデルを作ることはなかったのだ。
戦闘機はとにかく格好良かった。
旅客機はそれほど格好良くなかった。
そんな風に思ってしまうのは何故か。
自分はひょっとして戦争が好きなんだろうか?
 
そんな事を自問自答したことのある私にとって、宮崎駿監督の新作「風たちぬ」は見なくてはいけない映画だった。
 
で、見に行きました。
とても面白かった。
感動した。
そして宮崎監督の正直さとジレンマと才能に、様々な事を感じてしまった。
近頃、これだけ作家性を感じた映画はない。
そして自分の選んだ題材を、縦横に描くことの出来る腕も持っている。
そんな映画監督は、やはり黒沢明監督以来、彼しか日本にはいないように思う。
 
これはおそらく宮崎監督の中で最も自伝的な色彩を持った作品だと思う。
主人公は零戦の設計技師として有名な堀越二郎をモデルにした人物だ。
彼は「美しい飛行機をつくりたい」という思いだけで設計の道を進むが、結果的に作ることになるのは戦闘機だ。
戦闘機は戦闘のための道具であり、つまりは人殺しの道具だ。
それは「美しい」という言葉とは相容れない物だ。
「うちの子供は一日中『トトロ』を見ています」と母親たちに言われ、本来「自然がいかに素晴らしいか」を教えるために「トトロ」を作ったのに、その「トトロ」が子供達の貴重な時間を奪ってしまっていると感じた宮崎監督の立場と似ている。
 
宮崎監督は空中戦を描くのが上手い。
おそらく世界で一番上手い。
「コナン」「ナウシカ」「ラピュタ」などの初期作品には空中戦が沢山出て来る。
その後「紅の豚」があり、そして「風立ちぬ」である。
零戦を作った堀越二郎をモデルにしているのだから、当然、派手な空中戦があると想像した人も多い。しかし、この映画には空中戦はない。そのせいか、期待外れだとこの映画を評する声もある。
この現象は黒沢明監督の晩年の作品に関する現象に似ている。
 
黒沢監督が世界に認められた最初の作品「羅生門」は、外国の批評家に「レイプと殺人の物語」として認識されている文章を読んだことがある。
「用心棒」はその後「荒野の用心棒」に翻案され、マカロニウエスタン発祥の映画となった。
セルジオ・レオーネやサム・ペキンパーの作ったバイオレントな映画は、黒沢映画の多大なる影響のもとに作られた。
つまり黒沢監督はバイオレンスの巨匠でもあるのだ。
しかし黒沢監督自身はそう思われるのがいやだった。自分の影響で世界の映画界のバイオレンス描写がより過激になってしまったことを、後年後悔している。結果、晩年の作品からは暴力描写が減っている。(それでも「乱」の中で、楓の君の首を切る時の描写は凄まじく、そして上手い!)
風立ちぬの主人公は最後に素晴らしい戦闘機零戦の開発に成功する。
普通の映画監督だったら、零戦のその後の活躍と悲劇を描くに違いない。
つまり真珠湾攻撃でありミッドウェー海戦であり、そして神風特攻隊である。
しかし「風立ちぬ」にはその描写はない。
残骸となった戦闘機が描かれ、「一機も戻ってこなかった」という主人公のセリフがあるだけだ。
ここに宮崎監督の意志と覚悟を感じる。
映画的なクライマックスを考えれば零戦の大活躍を描く方がいい。多くの観客はそれを見て満足するだろう。しかし、それをしなかった。
黒沢監督の「影武者」が公開された時、ラストに大合戦シーンがなかった。それを指して「物足りない」とか「黒沢は老いた」という意見が多かった。
しかしそこにあの映画の特徴がある。
「風立ちぬ」も同じだと思う。
「風立ちぬ」を見ている最中、私は黒沢映画のことを沢山思い出した。
宮崎監督がどの程度それを意識したのかは分らないが、「志を持って映画を作る」という事を諦めていない二人の偉大なクリエイターには、何か共通したものを感じてしまうのだ。
 
黒沢監督が存命中に宮崎監督と対談した番組があり、後にそれは本となって出版された。その本のエピローグで「宮崎監督にとって黒沢監督はどんな存在ですか?」と聞かれて、彼はこんな風に答えている。
『私よりも遙かに先を背筋を伸ばして歩き続けている人です』
映画「風立ちぬ」を見た時、私は同じような事を宮崎監督に対して思った。
 
と言うところまで書いたら「宮崎監督引退」のニュースを知った。
思うところは沢山ある。
また別の機会に、それについては書いてみたいと思う。 
 
 

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