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2013年7月 8日 (月)

夢やぶれて

 
評判になっていた「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイをDVDで見た。
彼女はこれでオスカーを取ったのだ。
最近お気に入りの女優さんの一人なので、オスカー受賞は嬉しかったが、正直に言うと「プラダを着た悪魔」で取って欲しかった。
あの手の作品じゃ無理だと言う人が多いけど、オードリー・ヘップバーンは「ローマの休日」でオスカーを取ったのだから、ラブコメディで取っても良いじゃないかと個人的には思う。ついでに言えば、メリル・ストリープも「プラダ」の方が「サッチャー」よりも好みだ。
最近のオスカーは、シリアスな演技で実在する人物を演じると取れる、という方向に拍車がかかっている様で、ちょっと不満だ。
 
「レミゼ」のアン・ハサウェイの見せ場は「夢破れて」を歌うところだ。
これは文句なしに素晴らしい。オスカーも納得のパフォーマンスだ。
世間には、ミュージカルは苦手だという人が結構多く、そう言う人たちの中には、突然歌い出すのについて行けないという意見が多い。
分からなくはない。
実際、ミュージカル演出で難しいのはドラマから唄に転換する瞬間だと思う。
「レ・ミゼラブル」を見た人は知っていると思うが、この作品は全てのセリフを唄っている。「シェルブールの雨傘」と同じスタイルだ。だから、突然歌い出すということとは少し違うが、それでも本格的に歌い出す瞬間は存在していて、アン・ハサウェイのバージョンはここが実に素晴らしい。心情のこもったセリフの延長として唄が始まり、それが次第に盛り上がって行く。その様子がとてもスムーズでしかもリアルだ。
 
アン・ハサウェイが出なくなるとちょっと退屈だ。
ジャベールはちょっと太りすぎだろ。
マリウスは岡田くんの方が格好良かった。
などなど……と不満はあるが、スケールの大きな映像は見応えがあり、リアリズムとミュージカルの難しい接点もうまく演出していて、総じて良く出来た映画だった。
 
「夢破れて」は、日本人歌手もカバーしたりして話題になっているが、確かに良い曲だと思う。アン・ハサウェイはセリフの延長にあるリアルな歌い方で印象に残ったが、個人的にもう一つ印象に残っている歌唱は、数年前に話題になったスーザン・ボイルのバージョンだ。
 
「ブリテン・ガッタ・タレント」というイギリスのオーディション番組で彼女は見いだされるのだが、その第一次選考の時の様子が実に面白い。私はネットに上がっている映像を見たのだが、どなたか親切な人が日本語字幕をつけてくれたので、とても見やすかった。
 
彼女は当時47歳の独身で「男の人にキスもされたことないの」などと事前のインタビューで語っている。決して美人ではなく、中年太りした彼女は、化粧も髪型も田舎くさく、舞台に登場した時から、審査員だけでなく会場の観客達もどこか彼女を小馬鹿にした雰囲気であった。
「将来の目標は?」「プロの歌手になることです」「どんな風になりたい?」「エレイン・ペイジのようになりたい」
そんなやりとりの度に苦笑が広がるのが分かる。
ちなみにエレイン・ペイジはイギリスのミュージカルスターで、「キャッツ」の中で名曲「メモリー」を歌っている。
さてそんな四面楚歌の状況の中、オーディションは始まるのだが、最初の数フレーズが彼女の口から出た途端、会場の雰囲気は一変する。
『素晴らしい歌声である!』
予想もしなかった彼女の声と歌唱の素晴らしさに、会場は総立ち、拍手喝采となる。
歌唱が終った後、審査員の態度は一変していた。
「この3年間で最高の驚きだ。あなたが登場してエレイン・ペイジみたいになりたいと言ったとき、多くの人が笑った。今、あなたを笑う人は一人もいない」
「正直に言って私たちはあなたに対してシニカルで、敵対していた、貴方はそんな私たちの目を覚まさせてくれた」
審査員達のコメントからも、その衝撃の強さが分かる。
彼女は全ての偏見を実力で振り払ったのだ。
 
このオーディション番組にはサイモン・コーウェルという名物審査員がいて、いつも辛口のコメントで出場者に恐れられている。そのサイモンが最後にコメントをしたのだが、その内容が実に洒落ていた。
「僕は分かっていたよ。君がこのステージに登場した時から、何か素晴らしい物が見れるってね……予想通りだった」
会場は当然サイモンにブーイングの嵐。
サイモンは苦笑しながら、「スーザン、あなたはリトル・タイガーだね」と「夢破れて」の歌詞にひっかけた言葉で褒め称えた。
 
彼女はその後、決勝まで勝ち残ったが優勝は出来なかった。しかし、審査員のサイモンの後押しもあってCDデビューをする。それは世界中で大ヒットし、日本の紅白歌合戦にも招待された。
実は私もそのCDを買った。
当然「夢破れて」も入っている。素晴らしい歌声である。しかし、正直、あの一次選考の時の感動はそこにはなかった。
彼女のそれまであまり上手くいっていなかった人生と、あの歌の内容がリンクしたことが感動をより膨らませたのかもしれない。それは映画「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイの唄が彼女の役ファンテーヌの惨めな境遇とリンクしたことで特別な物に聞こえるのと同じ現象かも知れない。
いずれにせよ生涯に一度のチャンスを掴みプロデビューの夢をかなえたスーザンには、やはり盛大な拍手を送りたい。
そして次に「夢破れて」を見事な歌唱で聞かせてくれるのは誰なのか? 
期待して待ちたいと思っている。
 
 

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コメント

夢やぶれて、読みました。アン・ハサウェイさんの事も知らなかった。名女優で、唄も素晴らしい映画らしい。見て無いから、いかにも勉強不足を恥じるばかり!シェルブールの雨傘は、何回も見て、ラストシーンの雪のシーンが、なんとも言え無い、青春の日を思い出す。ぜひ、レ・ミゼラブルの夢やぶれてを聞きたい!

投稿: 高土新太郎 | 2013年7月11日 (木) 15時48分

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