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2011年11月18日 (金)

ロマンポルノの頃 Ⅲ

「もう女優を辞めたい」と言う彼女を説得するのに丸一日かかった。

監督、共演者、友人、そして肉親までがプロデューサーによって呼び出され、皆で説得に当たった。最後は説得というよりは、脅しに近い言葉も飛び出した。既にかなりの額の製作費が使われている。プロデューサーは必死だった。

とにかく彼女は復帰することになった。

また逃げられてはたまらない、と思ったプロデューサーは、彼女を撮影所の近くのホテルに宿泊させることにした。一人にしておくのは何かと不安だったので、共演の女優が一緒に泊まる事になった。

僕は毎日朝起きると、車でホテルまで行き、まだ眠っている彼女たちを起こして車に乗せ、撮影所に入るようになった。

やっと撮影が再開された数日後、今度は共演の女優が倒れてしまった。失踪した彼女が復帰するに当たり、一緒に説得したり、何かと気を使っているうちに、精神的に参ってしまったようだ。

今度はその子を別のホテルに入れることになり、僕は毎日二つのホテルを渡り歩いて、女優達をピックアップすることになった。

スケジュールは遅れに遅れていた。

もともとが女優たちにとってもスタッフにとっても、肉体的精神的にタフな仕事だった。

渋谷で声をかけられた少女が、ある夫婦の家の地下室に監禁されるというストーリーで、その頃、実際にアメリカのカリフォルニアで起きた事件をベースにしていた。

地下室を脱出して逃げるというシーンでは、本当の下水道で撮影が行われた。

真夜中の住宅街で、マンホールの蓋を開けて下に降りて行き、腰まで汚水に浸かって撮影は行われた。深夜からスタートしたそのシーンの撮影が終わったのは、朝日が登ってくる頃だった。少女役の女の子は、現場で号泣した。

そんな異様な雰囲気の中、役者もスタッフも必死になって作業したが、スケジュールの遅れは何ともし難く、あと数日を残すという時に、現場でスタッフ会議が開かれた。

「この後、数時間仮眠を取ってから海のロケに行き、戻って来てもう一度セットに入るのと、このままセット撮影をもう一日続けて、その後ロケに行く……どっちがいいですか?」

究極の選択である。

結果、僕たちは丸二日以上、時間にして約50時間連続でセット撮影を行う事となった。

そして、最後の海の撮影に出かけた。

皆が寝ぼけていたせいか、途中のドライブインでスタッフの一人を置き忘れたり……昼のシーンが撮りきれずに、ブルーのごみ袋をつなぎ合わせて巨大なシートを作り、それに照明を当てて海を再現したり……監督が砂浜を歩くカニの姿が撮りたいと言って、皆でカニを探したり……何だかんだと事件は起きた。

でも……とにかく……なんとか撮影は終わった。

現場でお疲れの乾杯をし、撮影所に戻って助監督室で仮眠を取り、自分の車に乗って家に向かった。あと100メートルくらいで家にたどり着くという時、僕は多分2秒くらい眠ってしまった。

車は電信柱に激突した。

タイヤは4つともバーストしていた。事故に巻き込んでしまった対向車のドライバーも含め、怪我人は出なかったが、取り調べに来た警察官は、私の顔を見て、こう言った。

「君、仕事のし過ぎだよ」

さて、数年後、この映画に出ていた女優の一人と再び仕事をする事になり、討ち入りもかねて居酒屋で飲む事になった。話題は必然的に、生涯忘れられないほどドラマチックで過酷だったこの映画の撮影の事になった。

「それにしても、失踪しちゃった彼女は今頃何やってんのかね」

何気なく言った言葉に、共演者だったその子は答えた。

「この間、連絡があって……例の軍人さんが除隊してアメリカに帰る事になって、彼女、結婚して向こうに住むってさ」

チャプリンの名台詞を思い出した。

「時は偉大なる作家である。いつでも完璧な結末を書く」

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